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2025/12/20

「希望者ゼロ」の部署が「人気部署」に変わった日――明和病院・末武千香看護部長が仕掛ける“情熱”のマッチング採用

インタビュー総合西宮市兵庫県
明和病院
「希望者ゼロ」の部署が「人気部署」に変わった日――明和病院・末武千香看護部長が仕掛ける“情熱”のマッチング採用
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「人を育てるのは教育しかない。教育がないと人は育たないし、育たなければ去っていく」。 兵庫県西宮市にある明和病院の看護部を率いる末武千香看護部長は、そう断言する。 かつては離職率の高さに悩んだ時期もあったという同院だが、現在は新人看護師が定着し、育児休業からの復帰も当たり前という強固な組織へと変貌を遂げた。 その背景には、効率性よりも「個人の情熱」を最優先する配属戦略と、現場の自主性を引き出すユニークなマネジメントがあった。

「空き枠」ではなく「想い」で決める配属

多くの病院において、新人の配属先は「欠員補充」の論理で決まることが多い。どこに何人足りないから、そこに何人入れる。パズルのような埋め合わせ作業だ。 しかし、末武看護部長の手法は異なる。

徹底した「想い」のマッチング

(後述する)ローテーション研修後の配属では「新人には必ず『行きたい部署を3つ選びなさい』と言います。そして一人ひとりと面談し、その子の思い入れが最も強い部署、あるいは適性が最も活きる部署への配属を模索します」

信和会明和病院-2025ノバイス研修2(末武看護部長 講義)

もちろん、希望が特定の部署に偏ることもある。しかし、頭ごなしに調整するのではなく、対話を重ねる。「なぜそこがいいのか」「そこで何をしたいのか」。 「第1志望でなければ辞める、という子も中にはいます。でも、そこまで強い意志があるなら、その情熱を尊重した方が結果的に組織のためになる。とことん話を聞いてマッチングさせます」

涙のV字回復:不人気部署を現場が変えた

この「希望重視」の方針は、時に残酷な現実を突きつける。昨年、ある病棟への配属希望者が「ゼロ」になるという事態が発生したのだ。

現場に「現実」を見せる

通常なら、看護部長の権限で強制的に人員を割り振るところだ。しかし、末武部長は違った。その事実を包み隠さず、当該病棟のスタッフに伝えたのである。 「今年は希望者が一人もいなかった。これが学生から見たあなたたちの病棟の評価です」と。

ボトムアップの改革

ショックを受けた現場スタッフたちは、そこから変わった。「どうすれば選ばれる病棟になれるのか」「自分たちの魅力は何なのか」。医師も巻き込み、病棟全体で魅力発信や雰囲気作りに本気で取り組んだ。 その結果、翌年の採用では、なんと5名もの希望者が殺到したのだ。

信和会明和病院-ミーティング

「配属が決まった時、病棟スタッフみんなで涙を流して喜んだそうです。『自分たちの努力が報われた』と。上から人をあてがわれていたら、絶対に生まれなかった感情です。これこそが、組織が強くなる瞬間だと感じました」

看護師の代わりはいるが、母親の代わりはいない

明和病院の看護部には、もう一つ徹底されている哲学がある。それは「生活と仕事の両立」に対するスタンスだ。

罪悪感を払拭するマネジメント

子育て中の看護師は、どうしても「子供の熱で急に休む」「時短勤務で先に帰る」ことに罪悪感を抱きがちだ。そんなスタッフに対し、末武部長はこう声をかけ続けている。 「看護師の代わりはいくらでも調整できる。でも、その子にとって母親の代わりはあなたしかいない。だから一番に子供のことを考えて」

「お互い様」の連鎖を作る

この言葉は、単なる優しさではない。管理職として「私が責任を持つから堂々と帰りなさい」と示すことで、周囲のスタッフにも「お互い様」の空気を醸成させているのだ。 「愛情は時間ではありません。短い時間でも『ぎゅー』っと抱きしめれば伝わる。そうやって家庭を大事にできたスタッフは、必ずまた現場で力を発揮してくれます」

実際、子育てを終えたスタッフが管理職になり、今度は若い世代を支えるという好循環が生まれている。

教育こそが最大の定着策

末武部長自身、かつて外科病棟の師長をしていた時代に、スタッフの8割が経験年数5年未満という厳しい状況を経験した。「教えてもらえる環境がないと、人は不安で辞めていく」と痛感したという。

その教訓は、現在の教育システムに色濃く反映されている。 たとえば入職1年目には、全部署を回る「ローテーション研修」を導入。早期から病院全体の機能を肌で感じさせる仕組みを構築した。さらに、新人を指導する若手看護師を「フレッシュパートナー」として任命し、先輩が後輩を教えるプロセスを通じて先輩自身も学び直す、「共育」の風土を根付かせている。

「『ここでなら成長できる』という実感があれば、人は辞めません。教育への投資は、遠回りのようでいて、最も確実な定着策なのです」

信和会明和病院-ボーリング大会2(右から2番目 末武看護部長)

医師の「代弁者」にはなるな

最後に、明和病院ならではの「看護師の立ち位置」について伺った。 山中若樹理事長の方針もあり、同院では医師と看護師の関係が非常にフラットだ。

「理事長からは『看護師が医者の代弁をするな』と言われています。医師の指示をただ伝えるだけの存在になるな、と。看護師としての専門性を持って、意見を戦わせる。それが許される風土があります」

信和会明和病院-特定行為研修倫理講義(末武看護部長)

民間病院ならではの意思決定のスピード感と、職種の垣根を超えた一体感。 「理事長が『やれ』と言ったらすぐ動く。このスピード感についてこられる今のスタッフたちは、私の自慢です」と末武部長は笑う。

管理とは、人を型にはめることではない。人の情熱に火をつけ、その炎が消えないように守り続けること。明和病院の事例は、そんなマネジメントの本質を教えてくれている。

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