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2025/12/19

「親切」を人事評価で数値化する――航空機メーカー由来の病院が貫く、理念“実行”への組織改革

インタビュー総合西宮市兵庫県
明和病院
「親切」を人事評価で数値化する――航空機メーカー由来の病院が貫く、理念“実行”への組織改革
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大学病院のような高度先進医療とも、小規模クリニックとも異なる。「地域密着型の中核病院」として、兵庫県西宮市で独自の存在感を放つ医療法人信和会 明和病院。 その経営の舵取りを行う山中若樹理事長に、同院のユニークな歴史的背景から、理念を「お題目」で終わらせないための徹底した人事戦略、そして地域医療再編を見据えたM&A戦略について話を伺った。そこには、綺麗事ではない「実行」を重視する、強烈なリーダーシップがあった。

航空機工場の診療所から地域の中核へ:異色のルーツ

明和病院の歴史を語る上で欠かせないのが、その出自だ。前身は、かつて紫電改など軍用機などを製造していた「川西航空機(現・新明和工業)」である。

戦時中、数万人の社員を抱える大企業であった同社は、社員の厚生福利と健康管理のために診療所、さらに4つの病院を地域に開設。終戦後、「空襲でご迷惑をかけた地域住民のためにも役立ててほしい」という創業者の思いから、4病院のうち鳴尾病院のみを残し、それが現在の明和病院の母体となっている。

川西航空機(現・新明和工業)

「敗戦後、航空機の製造が禁止され経営が困難になる中で、他の病院は売却されましたが、この病院だけは『地域医療への貢献』という大義のもと存続されました」と山中理事長は語る。

興味深いことに、「明和」という名称は、親会社(現・新明和工業)が社名を変更するよりも早く、病院側が使い始めていたという歴史がある。戦後の混乱期、復興への願いを込めて「明るく和する」という看板をいち早く掲げたのは、地域医療の現場だったのだ。

信和会明和病院外観

「親切」をボーナス査定に組み込む

多くの病院が「患者様第一」「信頼」といった理念を掲げるが、現場レベルまで浸透しているケースは稀だ。しかし、明和病院は違う。山中理事長は「親切と信頼」を単なる目標ではなく、「実行項目」として定義している。

徹底した「実行」へのこだわり

「目標と実行は違います。我々は『親切と信頼を目指した医療』ではなく、『実行する医療』なんです」。 山中理事長が着任した当時、病院は経営的にも組織文化的にも課題を抱えていた。そこで断行したのが、理念の実践を人事評価に直結させるという手法だった。

評価制度への反映

「親切と信頼」の実践度合いを、なんとボーナス査定や昇給の基準に組み込んでいるという。

  • 理念に基づく評価: 「親切・信頼」の実践度合いを評価項目(A〜Eなどの段階評価)とし、点数化。
  • 給与への反映: 評価結果を明確に賞与等に反映させる。
  • 教育への投資: 職員教育のためにホール(旧・明和ホール)を建設するなど、教育的研修を重視。

「医師であっても特別扱いはしません。組織としてフラットであることを目指し、臭いものに蓋をせず、どれほど腕が良くても、組織の和を乱したり『親切』を欠いたりする診療姿勢は評価しない。それを徹底しました」。 この一貫した姿勢が、現在の「断らない救急」「ゆりかごから看取りまで」を支える組織風土を醸成したのである。

「急性期」と「回復期」の機能分化

明和病院は現在、地域の中核を担う規模を持つが、その成長過程には近隣病院との統合という大きな転機があった。

グループシナジーによる地域完結型医療

かつては一つの病院内で急性期から慢性期までを診る体制だったが、近隣の「坂上田病院」の事業譲受(M&A)を経て、機能を明確に分離・再編した。 現在は医療法人名を「信和会」と改め、本院を「急性期」、第2病院を「回復期・慢性期」と役割を分担。急性期治療を終えた患者をスムーズにリハビリ病院へ転院させる連携体制を構築し、地域医療に対する役割は拡大した。

「大学病院で行われているような先進医療ではなく、『親切と信頼で、小回りを利かして』標準的医療を提供し、そして、リハビリや看取りまで地域内で完結させる。これが我々の基本戦略です」。

組織文化を守るための「トップダウン」

山中理事長は自身の経営スタイルについて、「トップダウン」であることを隠さない。 「民主主義的な合議制だけでは、危機的な状況や大きな改革は乗り越えられません。経営の方向性を転換する時期には、強力なリーダーシップが必要です」。

多くの病院経営者が現場の反発を恐れて改革を躊躇する中、山中理事長は「親切と信頼」という軸をぶらすことなく組織を牽引してきた。 「組織として目指すべき方向性が明確であれば、そこに共感する人材が集まり、自然と組織文化が形成されていきます」。 100名を超える医師団を抱える規模になっても理念が希薄化しないのは、トップが率先して「あるべき姿」を示し続けてきた結果と言えるだろう。

2026年への展望:ハードとソフトの融合

現在、明和病院は2027年のゴールデンウィーク頃にオープンする新病院への建て替えを進めている。

「AIやロボットなど、新しい技術は積極的に取り入れますが、医療の本質は『人』です。ハードウェアが新しくなっても、ソフトウェアである『親切と信頼』の精神がなければ意味がありません」。

建物が新しくなり、最新鋭の設備が導入されたとしても、明和病院の核となるのはあくまで「人」による「親切と信頼」の実践である。 ハード(施設・設備)の刷新と、ソフト(理念・人材)の継承。この両輪が噛み合ったとき、同院は真の意味での「地域密着型ホスピタル」として、次の時代へと飛躍していくのだろう。

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