ABCテレビのメディカルキャリア

お試し勤務から始まる、医療のお仕事の新しいカタチ。

2026/5/13

看護師採用の新常識「お試し勤務」とは?診療報酬改定下で進む採用・定着戦略

インタビュー
看護師採用の新常識「お試し勤務」とは?診療報酬改定下で進む採用・定着戦略
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診療報酬改定を背景に、看護師採用は「数を確保する時代」から「定着まで見据えた採用戦略」へと大きく変化しています。しかし、面接や書類選考だけでは、自院に合う人材かどうかを見極めることは容易ではありません。

こうした中、注目されているのが、本格採用の前に実際の業務を体験してもらう「お試し勤務」という手法です。採用のミスマッチを防ぎ、潜在看護師の掘り起こしにもつながるこの取り組みは、今後の人材確保における重要な選択肢の一つとなりつつあります。

本記事では、「お試し勤務」のメリットや導入のポイントに加え、柔軟な採用設計や定着につながる組織づくりの考え方について、株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 課長の馬渡美智さんに伺いました。

「お試し採用」が採用精度を高める理由

−本格採用の前に短期間の「お試し勤務」を導入する医療機関も出てきています。「お試し勤務」のメリットを教えてください。

 この人材が自院でキャリアを築き、長く活躍してくれるかどうかは、面接だけで見極めるのは難しいものです。

一般企業に目を向けると、近年は採用面接だけで判断するのではなく、インターンシップやアルバイトなど、実際に働く機会を通じて自社との適性を見極めたうえで採用するケースが増えています。医療機関においても同様に、実際に一定期間働いてもらい、双方が適性を確認する「お試し勤務」は有効な手段の一つといえるでしょう。

正式採用となれば、社会保険の適用や各種手続きなど、一定のコストと負担が発生します。加えて、採用にかかる人件費や事務コストも決して小さくありません。こうした負担を前提とする前に、まずは実際に働いてもらい、「自院で長く働けるか」を見極めるプロセスを設けることは、合理的な判断と考えられます。

 −「お試し勤務」は潜在看護師へのアプローチにも有効ですか。

 看護師は全国で70万〜80万人いるとされていますが、資格を持ちながらも医療現場を離れている人材(潜在看護師)も少なくありません。背景には、他業種でも一定の収入が得られることや、臨床現場に戻ることへの不安があると考えられます。

特に、子育てなどでブランクがある場合、「現場についていけるだろうか」という不安から復職に踏み出せないケースも多く見られます。こうした不安を解消する手段としても、「お試し勤務」は有効といえるでしょう。実際の現場に段階的に関わることで心理的ハードルを下げることができ、復職への一歩を踏み出しやすくなります。

近年では、ブランクのある看護師向けの研修や教育制度を整備している医療機関も増えています。これらと組み合わせながら、短時間・短期間でも現場に関わり続けることができれば、スキルの維持にもつながり、結果として長期的な人材確保にも寄与すると考えられます。

 −一方で、現場からは「受け入れ負担が大きいのではないか」という懸念の声もあります。どのように対応すべきでしょうか。

 「短時間しか来ない人に一から業務を教える余裕はない」といった現場の教育・フォロー負担への不安や、どの業務をどの時間帯で任せれば良いのか具体的なイメージが湧いていないこと、また医療現場のスピードやスキルについてこられるのかという不安があると考えられます。

いきなり病棟のメイン業務をお任せするのは、現場の負担になる可能性があります。今回の診療報酬改定でも「タスク・シェアリング(業務分担)」が推奨されています。まずは医療・介護施設の一部業務や勤務時間帯を切り出して、時短・短期のアルバイトとして設定するのはいかがでしょうか。

入浴介助のサポートや、お昼時など特に人手が足りない時間帯の補助業務など、病院の雰囲気が伝わりやすい業務から入ってもらうのが有効な方法と考えられます。

また無料のオンライン研修を活用し、一定の準備をした状態でお試し勤務に来てもらうことで、現場のスタッフがゼロから教える負担を大きく軽減できます。

柔軟な採用設計が人材確保の鍵に

従来の採用フローの硬直化と柔軟な採用の難しさについて語る馬渡さん

−「常勤は一律の採用試験が必要で柔軟な採用が難しい」という声もあります。こうした採用フローの硬直化はなぜ起こるのでしょうか。また、柔軟な採用設計を実現するための考え方を教えてください。

 「常勤には一律で採用試験(筆記や小論文など)を受けてもらうルールだから、特別な入社ルートは作れない」「現場から不公平だと不満が出る」といった声は、歴史のある病院や規模の大きな医療機関から本当によくお聞きします。

医療業界では長らく「フルタイムの常勤・非常勤」を前提とした採用が行われてきました。そのため、履歴書、面接、採用試験によって入口で一律にスクリーニングするという従来のプロセスが絶対的なルールとなっている一面があります。

また、多様な働き方を受け入れれば受け入れるほど、シフト作成の難易度が上がるため、フルタイムを前提とした採用が管理しやすいという一面もあると思います。

これらの慣習を変えることは容易ではありませんが、それ以上に人材を確保することが難しい現実があります。また今回の診療報酬改定ではタスク・シェアリングの推進や、医師・医師事務作業補助者の常勤要件に係る勤務時間数が週32時間から31時間に見直されるなど、柔軟な働き方の推進が明記されています。

多様な働き方を受け入れる柔軟な採用設計への移行は、まさに国が推奨する医療現場の働き方改革に直結する取り組みです。

 −多様な働き方が広がる中で、看護師にとってキャリアの選択肢はどのように変化していますか。

 自身が目指すキャリアを築くという観点でも、現在は選択肢がより明確になってきていると感じます。

高度急性期医療は特定の医療機関に集約されていく流れがあり、医師の配置も含めて、高度な医療を担う病院が明確になっています。そうした医療機関に就職すれば、専門性の高いスキルを身につけることが可能です。

一方で、手術後の患者をリハビリし、在宅復帰へとつなげる回復期や慢性期の医療機関も、医療提供体制において重要な役割を担っています。高度な処置だけでなく、患者の生活に寄り添ったケアを重視したい看護師にとっては、こうした領域でキャリアを築くという選択肢もあります。

また、子育てなどライフステージに応じて、安心して働き続けたいと考える方にとっては、回復期・慢性期・精神科などの医療機関が適しているケースもあります。これらの現場では、高度なスキルの習得に加えて、多職種で連携しながら医療を提供していくことが重視されており、チームワークを活かした働き方が求められます。

さらに、近年では在宅医療の重要性も高まっており、訪問看護師の需要は非常に高い状況です。病院だけでなく、訪問看護の領域でキャリアを築くことも、これからの時代において重要な選択肢の一つと言えると思います。

地方医療の人材確保は「新卒依存」から脱却へ

−地方の医療機関では、今後どのような変化が起きていくとお考えですか。

 地方においては、医療機能の集約が進み、多くの医療機関が回復期や慢性期を担う役割へとシフトしていくと考えられます。

その中で人材をどのように確保していくかが重要な課題となりますが、新卒看護師の多くは高度急性期病院を志向しており、実際に約7割がそうした医療機関に就職しているというデータもあります。そのため、回復期・慢性期の医療機関が新卒採用だけで人材を確保するのは容易ではありません。

こうした状況においては、一度現場を離れたものの再び看護師として働きたいと考えている潜在看護師や、夜勤を伴うハードな働き方は難しいものの、地域に根差した医療に関わり続けたいと考える人材に目を向けることが重要です。

あわせて、採用だけでなく「辞めない組織」をつくることも不可欠です。働き続けられる環境を整備することで、定着率を高め、結果として安定的な人材確保につなげていく必要があります。

 −人材確保が難しい中で、潜在看護師にはどのようにアプローチしていくべきでしょうか。

 現在は他業種でも賃上げが進んでおり、企業が看護師資格を持つ人材を採用するケースも増えています。そのため、医療機関にとって看護師の確保はこれまで以上に難易度が高まっているのが実情です。

こうした状況の中で、今回の診療報酬改定では賃上げが後押しされており、まずはその枠組みを活用しながら、全体的な給与水準の引き上げに取り組むことが一つのポイントになります。

一方で、潜在看護師の多くは「ブランクがあるため現場に戻りづらい」「自分の望む働き方で続けられるのか不安」といった課題を抱えています。こうした不安を解消できなければ、人材確保にはつながりません。

そのため、病院を地域に開き、潜在看護師が気軽に関われる機会をつくることが重要です。たとえば、スキルを段階的に取り戻せる研修の場や、実際の業務を体験できる機会を提供することで、復職へのハードルを下げることができます。

さらに、地域住民も含めて人が集まる場をつくり、病院を「閉じた組織」ではなく「地域に開かれた存在」へと変えていくことが、結果として人材確保にもつながっていくのではないでしょうか。

やりがいの可視化が定着を生む

医療現場で働く価値ややりがいについて語る馬渡さん

−こうした変革期において、医療現場で働くことの価値はどのような点にあるとお考えですか。

 人の生活を豊かにする考え方の一つとして、「いかに他者に貢献できるか」という価値観があります。医療職はまさに人に尽くすことができる仕事であり、その中で自身の成長を実感できる点や、仕事そのものが喜びにつながる点が大きな魅力だと考えます。

一方で、そうした志を持って医療の現場に入ったものの、日々の業務に追われる中でやりがいを感じる余裕がないという声も少なくありません。特に高度急性期医療では在院日数が短く、患者が短期間で入退院を繰り返すため、患者との関係性を実感しにくく、やりがいにつながりにくいという課題もあります。

こうした課題に対しては、たとえば連携している医療機関から「手術後の患者がここまで回復した」といったフィードバックを受けるなど、自分たちの仕事がどのように患者の回復や生活に貢献しているのかを可視化する取り組みが有効と考えられます。

金銭的な報酬だけでなく、自身の仕事がどのような価値を生み出しているのかを実感できる環境を整えることは、やりがいの醸成や定着率の向上にもつながる重要な施策の一つだと考えます。


馬渡さんのプロフィール写真

馬渡美智 氏

株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部・課長

従業員数500名規模の事業所で、総務・人事業務に従事した後、日本経営入社。入社後は組織人事コンサルティング部門に配属され、労務管理体制の調査・整備業務、組織活性化支援、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。社会福祉協議会、各種団体等での講演やセミナーも多数行っている。 社会保険労務士有資格者。

取材・執筆
株式会社アンダースタンド
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