2025/12/4
「人が生きる」を支え続ける。地域医療を担う姫路北病院 看護部長 稲田博昭氏に聞く、精神科看護の魅力と働きやすい職場づくり

今回は、看護師の活性化と就業環境の改善に取り組む一環として、姫路北病院の稲田博昭看護部長にお話を伺いました。心理学への関心から精神科看護の道に進まれたという、異色の経歴を持つ稲田部長。その道のりや、働きやすい職場づくり、そして患者さんと職員がともに楽しめる病院の魅力について、熱く語っていただきました。
――まず、ご自身の経歴と、看護部長になられるまでの道のりをお聞かせいただけますでしょうか。
稲田部長: 少し変わっているのですが、若い頃は心理学や西洋哲学などに興味があり、その方面で悩んだ時期がありました。「結局、何がどうなっているのか分からない」と(笑)。その頃は全く別の仕事をしていました。
転機は、郷里の姫路に帰ってきたタイミングで、この姫路北病院にお誘いいただいたことです。そこから准看護学校、そして加古川市立の看護学校を卒業し、看護師になって30数年になります。病院から自転車で10分ほどのところが実家で、たまたまご縁があったという感じです。
――精神科の病院を選ばれたのは、やはり若い頃に抱いた心理学への問題意識が原動力になったのでしょうか。
稲田部長: そうですね。「心が病気になるって不思議なことだな」という問題意識がずっとあり、心理学や哲学、日本の宗教などの本を読み漁っていました。しかし、それだけでは食べていけないので別の仕事をしていたのですが、精神科というフィールドで、自分が培ってきた知識が生きるのではないか、という思いが強くありました。
――実際に働き始めて、その興味分野と精神科看護はどのように影響し合いましたか?
稲田部長: 若い頃はかなり観念的だったと反省しています。実際の患者さんが困っているのは、もっと生活に密着した部分でした。理屈はさておき、「どう支えていくか」という点で、考え方を改める必要がありました。
特に、作業療法士(OT)や精神保健福祉士の方々の姿勢は大変勉強になりましたね。彼らは具体的に患者さんのご自宅を訪問し、地域での生活を支えています。「再入院を防ぐ」という意味で、訪問看護の重要性を痛感し、私の考え方も大きく変わりました。
――貴院のホームページには音楽会開催の記載がありますね。どのようなレクリエーションをしていますか?
稲田部長: 現在、OTが中心となってバンドを組んで文化祭で演奏したり、オペラ歌手を招いてレクリエーションとして楽しんだりという形で、音楽会を開催しています。
実は、当院はコロナ以前、花火大会や文化祭を活発に実施し、近隣の小中学生に門戸を開放するなど、「病院らしくない、楽しい雰囲気」を大切にしてきた歴史があります。ドクターが焼きそばを焼いたり、職員がたこ焼きを作ったりと、大変開放的でした。

「ちょっと面白い病院だよね」と感じてもらえるような、この雰囲気をもう一度復活させたいと強く思っています。
――看護師の働き方改革について、大切にされている方針はありますか?
稲田部長: 一般病院では残業が多いと聞きますが、当院では原則、緊急入院など一部を除いて、そこまでの残業はありません。育児休業や産前産後休業は当然のこととして、時短勤務や、子育て期間中の夜勤免除など、それぞれの実情に合わせて柔軟に対応しています。特に女性が働きやすい職場作りをイメージしています。
また、奨学金制度や保育料の援助といった福利厚生にも力を入れており、職員の生活を支える体制を整えています。
――精神科病院における看護師の採用や退職に、時代の変化を感じることはありますか?
稲田部長: 以前は、一般病院で働いた後、子育てが落ち着いてから精神科へ転職するというパターンが主流でした。しかし、近年、私たちが熱心に看護実習を受け入れているおかげで、新卒で精神科を選んでくれる若い看護師が増えてきました。これは昔では考えられなかったことです。
一方で、若い女性が増えたことで、結婚を機に大阪などの都市部へ転居・退職してしまうケースも増えており、「もう少し地域に定着してほしいな」というのが正直な思いです。
――現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは進んでいますか?
稲田部長: まだオーダリングシステムの導入など、緒に就いたばかりの段階です。ただ、たまたまシステムエンジニアを辞めてナースになった職員がおり、その知見を借りて、チェックソフトを作成したり、情報伝達を短時間で済ませるための仕組み作りを試行錯誤している最中です。アナログな情報共有が不可欠な面もありますが、DXの力を借りて効率化を進めていきたいと考えています。
――これから看護師として働くことを考えている方へ、メッセージをお願いします。
稲田部長: 免許を持っておられるのに働いていない方は、かなりの数おられると思います。潜在的な労働力の掘り起こしという点で、私たちももっとメッセージを届けなければならないと感じています。
復職をためらう理由の一つに「手技に対する不安」があるかと思いますが、精神科では採血や点滴などの手技的なものは一般科に比べて多くはありません。それよりも、最新の患者さんの傾向や、疾患行動の変化(例えば、うつ病の増加)といった知識・対応についての勉強会を熱心に行っています。
手技の不安は全く心配いりません。安心してご応募いただきたいです。精神疾患に関する勉強を通じて、患者さんを「生活」という視点から支えていくやりがいを、ぜひ感じていただきたいと思います。

姫路北病院
稲田博昭


